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PEST分析

PEST分析は、事業の外部環境分析、特にマクロ環境分析を行う際のフレームワークです。

PESTというのは、Politics(政治的要因)、Economics(経済的要因)、Society(社会的要因)、Tecnology(技術的要因)のそれぞれの頭文字を取ったもので、事業に影響するこれらの要因を分析することがPEST分析です。

この外部環境分析は、SWOT分析において、Opportunities(機会)とThreats(脅威)を見出すための分析に該当します。したがって、PEST分析はしばしばSWOT分析の一部として行われるます。同じくSWOT分析の外部環境分析として有効なフレームワークに5フォース分析があります。5フォース分析が業界の競争相手や取引相手など自社に直接的関わる対象を分析するのに対し、PEST分析はよりマクロな環境要因を分析の対象とします。

言い換えれば、直接的な競争環境における対象をMECE(モレなくダブリなく)に分けたものが5フォース(5つの競争要因)で、直接的な競争対象よりも広い範囲のマクロ環境という目に見えない対象をMECEに分けたものがPESTと言えます。

SWOT分析において、内部環境というのは自社内の問題なので自助努力で改善可能です。5フォース(5つの競争要因)は、取引先や顧客に直接働きかけることは出来るという意味で努力で状況改善は可能ですが、相手がある問題ですので一筋縄には行きません。PESTになると、個々の相手も見えないマクロな要因が相手なので、自社1社による働きかけや努力のみではどうすることもできない「所与の条件」に近い存在です。それでも、業界団体を通じた政治への働きかけが規制緩和などの法律変更を促すことや、自社による流行の喚起などの可能性はまったくないわけではありませんが、短期的な施策にはなりえません。

以下に、PEST要因となる項目を例示します。

【Politics:政治的要因】

  • 法律(規制、税制度、補助金制度など)
  • 政府の動向、大きな政治のトレンド
  • 国際政治関係(貿易・関税問題、政情不安地域の影響、資源問題など)

【Economics:経済的要因】

  • 産業構造の変化
  • GDPの趨勢
  • 景気、物価
  • 金利、為替、株価
  • 個人消費・個人所得・家計貯蓄率
  • その他各種経済指標

【Society:社会的要因】

  • 人口構成、外国人の移入
  • ライフスタイル、文化・サブカルチャー、流行、価値観
  • 教育
  • 環境問題
  • 社会問題(食品偽装、海賊品流通、その他事件など)

【Technology:技術】

  • 技術革新と技術トレンド
  • 基礎研究の動向
  • 特許の動向
  • 自社に直接関連する代替可能性のある技術の動向

Society(社会的要因)に含まれる「環境問題」に関しては、“environment”として4つの要因とは独立させ、PESTeと称する場合もあります。

カテゴリー:ALL, ストラテジー

フリービジネスモデル

フリービジネスモデル(無料経済システム)は、消費者/顧客が無料で商品・サービスを得られるビジネスの仕組みのことを言います。クリス・アンダーソン(Chris Anderson)が“Free:The Future of a Radical Price”『フリー <無料>からお金を生み出す新戦略』にて示した4つに類型が知られていますが、ここでは5つないし6つの類型を示します。

  1. 直接的内部相互補助モデル
  2. 第三者広告料モデル
  3. 第三者手数料モデル(エージェント・モデル)
  4. フリーミアム・モデル(フリー&プレミアム・モデル)
  5. 贈与経済モデル
  6. ハイブリッド・モデル

1.直接的内部相互補助モデル

このモデルは、同一顧客に対して、有料のオファー(商品・サービス)と無料のオファーを組み合わせて提供します。無料分のロスは、有料オファーの料金で回収する仕組みです。これはビジネスモデルというほど大げさなものではなく、一般的に行われてきたマーケティングにおけるセールス・プロモーション施策のひとつと考えることができます。たとえば、ガソリンスタンドでタイヤに空気を入れるサービスは無料ですが、同時に燃料の給油や洗車を行ってもらうことで利益を獲得します。小売店のロス・リーダー(目玉商品)施策は、このモデルの思想と同じです。特定商品に限っては売り手が損をしてしまうような破格の値段で提供し、しかし同時に他の商品を併せて購入してもらうことで利益を獲得しようとするものです。実際には、購入者は有料商品の購入において、無料分の料金を上乗せして払っていることになります。

このモデルは、二つに分けることができます。

①同時的モデル

同時的モデルは、1回の購入時に、無料オファーと有料オファーを組み合わせるもので、小売業のロス・リーダー的なやり方、複数購入したら1個無料、AとBをを購入したらCが無料、などといったパターンがこれに該当します。

②時系列モデル

時系列モデルは、複数回のリピート購入を前提にした考え方です。

これは、初回無料にすることで継続的なリピートを期待する事前インセンティブ・タイプと、累積購入金額が一定金額たまったら無料得点をつけることで離反抑止を期待する事後インセンティブ・タイプとがあります。

直接的内部相互補助モデル

2.第三者広告料モデル

これは、現在は多くのインターネット・ビジネスで用いられているモデルですが、古くはラジオ局が導入し、続いてテレビ局が導入したモデルで、戦前に確立されたモデルです。

オファーの提供対象者(商品・サービス・コンテンツなどのユーザー)からは料金は徴収せず、第三者の広告主の広告を掲載してその広告料を得ることで利益を上げるモデルです。言い換えれば、ユーザーの利用料金を広告主が肩代わりするシステムです。

第三者広告料モデル

3.第三者手数料モデル(エージェント・モデル)

オファーの提供主体である企業とその顧客(消費者・顧客企業)の間にエージェントが入って取引を仲介するモデルです。

エージェントは、エンドユーザーからは直接料金は徴収せず、クライアントであるオファーの提供主体である企業から手数料を徴収します。実際は、手数料はエンドユーザーの支払う価格に含まれていることになります。

第三者手数料モデル

4.フリーミアム・モデル(フリー&プレミアム・モデル)

無料版と有料版(プレミアム・バージョン)のオファーがあり(これをバージョン化と言います)、有料版の顧客が支払う料金が、無料版のサービスを支えている仕組みになります。このモデルが成立するほとんどの事業は、製品・コンテンツなどの複製・拡大再生産にかかる限界コストが限りなくゼロに近いデジタル・コンテンツ/サービス/製品ですので、無料版のユーザーが多いことはコスト的に問題にはなりません。実際、無料版にてユーザーを広く獲得し、デファクト・スタンダード(事実上の標準)を獲得することが、収益源である有料版のユーザーを獲得する重要な施策となります。一般に、5~15%の有料ユーザーが、その他の95~85%の無料ユーザーを支えていることが多いようです。

フリーミアム・モデル

5.贈与経済モデル

これは、最も本当の意味に近い無料経済システムですが、この事業のみを指してフリー“ビジネス”モデルと言えるかどうかは定かではありません。ウィキペディアやその他ウィキを利用した多数のクラウド・ボランティアによって成立するサービス、同じく多数のクラウド・ボランティアによって成立する他のウェブサービスやオープンソース・ソフトウェアなどがこのモデルです。直接的な金銭的インセンティブに基づくビジネスではなく、マズローの欲求階層の上位層の欲求を満たすシステムだと考えられます。ただし、このシステムに参画し、コンテンツを提供する者は、単に利他的な行為や自己満足として労力を提供しているのではなく、自分もユーザーになったときに効用が得られる、得たい、というインセンティブもあります。この場合、参画者はコンテンツの生産に参画し、消費にも参画する“プロシューマー”と言われる存在となります。

贈与経済モデル

6.ハイブリッド・モデル

上に示した各モデルは、単独で用いられる場合もありますが、しばしば組み合わせて用いられます。例えば、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の多くは第三者広告料モデルとして広告料収入を得ていますが、フリーミアム・モデルを採用してプレミアム・ユーザーに課金しています。

ウェブ・サービスにおいて複数のサービス・ポートフォリオを持っている企業やソフトウェア企業において複数の製品ポートフォリオを持っている企業は、ある製品・サービスでは贈与経済として完全なるフリーで提供し、他の製品・サービスで収益を得るということもあります。これは、広義の直接的内部相互補助モデルとも考えられます。

このように、これらのモデルは相互に排他的なわけではなく、むしろそれぞれのモデルを組み合わせることで、より多用な収益源とインセンティブ・システムを確立し得ると考えられます。

カテゴリー:ALL, ビジネスモデル

バリューチェーン

バリューチェーン(価値連鎖)とは、ハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーターが提唱したフレームワークで、事業活動を構成要素に分解してその役割と流れに沿って体系的化するものです。このバリューチェーンを使って企業活動を分析することをバリューチェーン分析と言います。業界のKSF(Key Success Factor:重要成功要因)を特定したり、自社の事業活動のボトルネックを特定したりする上で優れたフレームワークです。

バリューチェーンは業界によって様々な構成が考えられます。このバリューチェーンは、主活動と支援活動から構成されています。日常用語的には、主活動のみを指してバリューチェーンと呼ぶこともしばしばあります。

支援活動は、事業横断的かつ部門横断的に行われる全社的な活動を指します。

主活動は、業界によって実に様々な構成が考えられますが、製品の企画・開発から始まり、販売・アフターフォローにいたる事業活動の連鎖の組み合わせです。一般的にバリューチェーン分析は製造業において当てはまりがよく、多用されていますが、店舗を持つ業界やサービス業務を行う事業においても適用することは可能です。

従来バリューチェーンは、企業内部の活動の連鎖と考えることが多くありましたが、現在では外部との連携も含めてバリューチェーンとして考えることもしばしばあります。また、そのような広義のバリューチェーンは、サプライチェーンとほぼ同じような概念と考えることができます。ただし、サプライチェーンは、物流に重きが置かれているので、モノの流れを伴わない業種においては、広義のバリューチェーンとサプライチェーンはイコールになりません。

バリューチェーンの例

カテゴリー:ALL, ストラテジー, ビジネスモデル

取引数単純化の原理

取引数単純化の原理」(取引数最小化の原理、取引数極小化の原理)とは、「不確実性プール原理」と並ぶ商業(商業者)の存在意義を説明する「卸売機能原理」のひとつです。

元来は、生産者と消費者との間に卸売業者や小売業者が入ることで、全体の取引数を減らすことが出来るという原理として提唱されました。この原理はしばしば卸売業の存在意義を説明する際に用いられますが、卸売業のみにあてはまるものではありません。小売業の存在意義のうちもっとも本質的ながら最も見落とされがちなのは、生産者が個々の消費者に直接アクセスすると膨大な取引数になってしまうために、小売店という特定の場に多数の生産者が生産物を集めることで効率的に生産物を提供することができることにあります。現代においては卸売業や小売業のみでなく、ポータルサイトや転職エージェントはじめとするあらゆる仲介ビジネス、マッチング・ビジネスを成り立たせるフレームワークとして考えることができ、今日においては極めて重要性が高い概念です。すなわち、中間業者が仲介するのは、商品物流だけでなく、情報も仲介するという部分において、この原理の今日的な重要性が高まっています。

図1.直接流通

 

生産者が4社、消費者が5人の場合、直接流通の場合の総取引数は図1のように20となります。

図2.間接流通

 

図2のように中間業者が1社入って間接流通になると、総取引数は図2のように9となります。

この場合、

直接流通の総取引数:20>間接流通の取引数:9

となり、間接流通の取引数単純化の原理が働いたことがわかります。このような場合、間接流通になることで取引にかかるコストが削減されます。

図3.中間業者の多すぎる間接流通

 

しかし、中間業者が3社になると、総取引数は図3のように27となってしまい、

直接流通の総取引数:20<間接流通の総取引数:27

と、間接流通のほうが総取引数が多くなってしまいます。

したがって、間接流通による効率性のアドバンテージを得るには、

直接流通の総取引数(D)>間接流通の総取引数(I)

とならなければなりません。

直接流通の総取引数(D)<間接流通の総取引数(I)

となってしまった場合には、中間業者は理論上、

直接流通の総取引数(D)>間接流通の総取引数(I)

となるまで削減されることになります。

つまり、中間業者の存立可能数は、間接流通による総取引数が直接流通の取引数未満になる状態を実現できる数となります。

ただし、すべての消費者がすべての中間業者と取引することは現実的にはありません。また、かならずしもすべての中間業者がすべての生産者と取引することもかぎりません。その場合には、中間業者が3社入った場合でも上の図3よりも取引数が少なくなります。ただし、それは直接流通にも同じことが言え、すべての消費者がすべての生産者と取引するわけではありません。

カテゴリー:ALL, ビジネスモデル, マーケティング

VMS(垂直的マーケティング・システム)

VMS:Vertical Marketing System(垂直的マーケティング・システム、垂直流通システム)とは、流通チャネルにおける垂直方向の対立とそれに起因する多大な取引コストを最小化するために採用される一体的チャネル・システムです。チャネル間の結びつきの強さから3つの類型が考えられます。なお、コトラーらによる「ラテラル・マーケティング」と「バーティカル・マーケティング」の分類とは関係ありません。

かつて、流通における競争は水平方向、同一レイヤーのプレイヤー間での競合関係を主として行われていました。その後、完成品メーカーと小売業者を筆頭に、価格主導権をめぐって垂直方向の取引業者間での競争関係が強くなりました。

水平方向の競争

垂直方向の競争

垂直方向での競争が激しくなると取引コストが増大します。そうなると、チャネル・プレイヤーは、チャネル・リーダーのもとに組織取引(チャネルの垂直統合)や中間組織(資本統合をしない連携)を検討し、取引コストの削減を検討します。VMSは、チャネル・リーダーのもとに計画的に目的を共有した一体的な流通チャネル・システムを指します。

VMSは、チャネル・リーダー(チャネル・キャプテン)による他のチャネル・プレイヤーの統制・統合の度合いによって3つのシステムに分類されます。

VMSの類型

【企業型システム】:Corporate Systems

生産段階と流通段階が単一の資本のもとに垂直統合された流通システムを指します。アパレル業界でSPAと言われるシステムや家具のIKEAに代表される製造小売業と言われる業態が典型的に該当します。小売業が独自商品の製造を始めた場合もこのシステムと考えられます。しかし、米国の流通理論が日本に持ち込まれて以来、この企業型システムは契約型システムとの違いをめぐって論者によって解釈が異なります。自動車ディーラー、化粧品の独立資本販売会社、家電の系列販売店といった別資本ながらも特定メーカーの専売チャネルとして機能している川下小売業者とメーカーの間の関係は、資本統合はされていないながらも日本においては企業型システムに含めて考えることがあります。厳密な言葉の定義を考えれば、これらは次の契約型システムに含まれます。しかし、契約型システムが、FCやVCという特徴的なシステムとして狭義に解釈された場合には、系列小売は企業型システムに含めて考えます。

企業型システムにおいては、単一組織と同じように明確な共通目標を保有し、内部組織と同様の権限と命令による運営がなされます。このシステムを構築するには大きな資本投下が必要となります。不要な取引コストを限りなく削減できる反面、チャネルの維持・管理コストがかかるほか、変化に柔軟に対応しにくいという面もあります。

【契約型システム】Contractual Systems

この契約型システムで典型とされているのは、フランチャイズ・チェーン(FC)とボランタリー・チェーン(VC)、およびコーペラティブ・チェーン(日本ではVCに含めています)です。商品力やノウハウなど経営資源の優れた特定のチャネル・リーダーが中心となって、法人格としては独立した企業を契約によって束ねることで、共通の目的のもとに商品・ノウハウ・技術などの共有(特にFC)や共同仕入れ等による規模の経済の追求(特にVC)を図るシステムです。ただし、このシステムも、必ずしも資本的に独立しているかと言うと、そうではなく、チャネル・リーダーが他プレイヤーの資本を緩やかに保有しているケースもあります。そして、次第に資本参加を深めて行き、資本傘下におさめるケースもあります。代表的には、コンビニエンスストアのFC、ドラッグストアのVCなどが挙げられます。

FCは本部と加盟店の契約関係が厳密で、縦方向の組織関係が強く、本部による統制的色彩の濃いシステムです。VCは、卸や小売の個々のプレイヤーが寄り集まって共同本部を立ち上げるため、本部による統制は弱く、加盟店同士の横の連帯とう色彩が濃いシステムです。なお、FCには、商品・商標の提供を主体とした「プロダクト&トレードネームFC」と、商品だけでなく経営ノウハウの提供・指導を重視する「ビジネス・フォーマットFC」の2通りがあります。前者の例は、飲料メーカーとボトラー、後者の例はコンビニやファストフード・チェーンです。

【管理型システム】Administered System

チャネル・リーダーが、法人格として独立したたのチャネル・プレイヤーを厳密な契約によらずに組織化し、自らの目標に沿って管理・統制するシステムです。これは、特約店・代理店といった制度が代表的な例と考えられています。たとえば、メーカー・卸・小売の3段階で考えた場合、メーカーが卸売段階に関して、販売地域ごとに卸売業者を選定して自社の優先的販売権を与え、目標販売数量、卸売業者や小売業者に対する支援策、代金の支払い方法などについて契約します。小売開拓は卸売り業者が行います。リテール・サポートとと呼ばれる小売支援施策に関しては、卸を通さずにメーカーが直接小売に働きかける場合もあります。管理型システムは、アスクル・エージェントとよばれる文房具店とメーカーのアスクルの関係がこれに相当します。これは卸抜きのメーカーと小売の2段階の管理型システムです。

管理型システムは、他のシステムに比べて最も資本投下が少ないシステムで、VSMの中ではもっとも市場取引に近い形態です。その分、チャネル・リーダーのチャネル構成員に対する統率力は一般的に緩やかになり、目標の共通化なども限定的です。

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取引コスト

ロナルド・コースの取引コスト経済学を継承・発展させたオリバー・ウィリアムソンは、市場取引におけるコストの存在とその影響を考察しました。

その考えに基づけば、複雑な環境下の市場取引には取引コスト(取引費用)というものが発生し、多大な取引コストを回避するために企業は取引先を自社資本に内部化した組織取引という形態へと移行します。逆にチャネルを資本傘下に持つための内部化コストが取引コストを上回るときには、市場取引という形態が採られます。

主な取引コストには、財の交換の機会探索に関する「探索(調査)コスト」、交換の条件に関する「交渉コスト」、契約を合意通りに実施するための「監視コスト」があります。

探索コスト:

どの企業が安くて良い品を提供する業者かを探し出すための情報探索コスト。

交渉コスト:

双方が取引の合意に至るまでにかかる駆け引きのために生じるコスト。

監視コスト:

合意したとおりに取引が実行されているかを監視したり、されていなければ法的手段等で対処する場合等にかかるコスト。

取引コストが発生する理由は、取引当事者の「制約された合理性」と「機会主義的行動」にあると考えられています。

「制約された合理性」とは、企業や個人は、利益の最大化を求めて最も合理的な条件での行動を採りますが、判断材料としての保有情報量と処理・予測能力には限界があるため、限られた条件の下での合理的判断になってしまうということです。複雑な環境下で情報不足や判断困難に陥ると、合理的判断をしようとするためのコストは高くなってしまいます。

「機会主義的行動」とは、企業や個人が有利な交渉・取引を進めるために、自分側に有利な情報や相手に不利な情報を相手方に隠したり、積極的に開示しようとはしなかったり、場合によっては裏切ったりする、といった行動を指します。これは、相手方の制約された合理性にも繋がります。

「制約された合理性」と「機会主義的行動」が高まるような複雑な環境下では、探索・交渉・監視といった取引コストがより多くかかってしまいます。そうなると、取引主体の双方にとって大きな負担となってしまいます。そのような複雑な状況下においては、企業は取引コスト削減のため、市場取引から組織取引へと移行することが考えられます。組織取引への移行とは、取引相手企業を自社で保有する、つまり垂直統合して流通取引相手を自社資本下・自社系列下に収めるということです。これは内部化とも呼ばれます。

ところが、この内部化にもコストがかかります。たとえば、メーカーが自前で流通シャネルを保有するには、物流倉庫や店舗を建設したり、既存の流通業者を買収したりするのに必要な投資コストと、それらを継続的に維持していくための管理コストがかかります。これらを内部化コストと言います。

理論上は、取引コストと内部化コストを比較して、取引コストのほうが大きい場合には組織取引が、内部化コストのほうが大きい場合には市場取引が選択されます。

しかし、取引形態は純粋に市場取引と内部取引に分けられるわけではなく、その中間的形態として、中間組織(中間取引)という取引形態があります。この中間組織には様々な形態があります。以下の図のように市場取引的な取引から組織取引的な取引へのスペクトラムを考えることができます。

取引形態のスペクトラム

純粋な市場取引においては、その都度1回性という前提の下の交渉・取引が行われます。しかし、事業を継続していくに当たって、チャネル間での取引は反復性を帯びてきます。

反復取引は、単に経済的・コスト的かつ都度1回的な関係ではなく、複数回の取引をある程度前提とした人間関係の入り込む取引形態です。過去の取引の情報・関係性によって、スムーズな取引が可能となります。

長期取引は、それが長期間にわたって継続することを前提とした1回性ではない契約を交わしての取引関係です。これによって取引に伴う不確実性を減らすことができます。

パートナーシップは、取引主体の相互依存度が大幅に引き上げられます。買い手は少数の特定の取引先に仕入れを集中させることによって、安定的な入手が難しい財の優先的供給を実現したり、付帯サービスを確保したり、まとめ買いによる数量割引などの柔軟な対応を実現したりすることが可能です。もちろん、サプライヤーも長期安定大口取引が可能となることは大きなメリットです。それだけでなく、双方の業務の質の向上や生産・供給効率の向上などに向けて協力することもあります。

戦略提携は、取引主体が別々の企業でありながら、長期的な取引関係を前提に共同の目標にむけてプロジェクトを組んで、商品開発やプロセス・イノベーション等において協働で取り組みます。チャネルの異なるプレイヤー同士が異質の経営資源を供給し合うところに新たな価値が生まれます。

組織取引は、企業が他のチャネル・プレーヤーを資本統合して傘下に収めたり、自社で自前の流通チャネルは開発したりすることで、取引コストの発生を避ける取引形態です。

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集合知

集合知は、オープンソース・ソフトウェア、web2.0、wiki、クラウドソーシングなどで典型的に用いられる概念で、単純化すれば「個人の知より集団の知のほうが勝る」という考え方です。しかし、集合知の概念はそれを用いる人や状況によって異なります。英語においては、“collective intelligence”と“wisdom of crowds”いう二つの言葉が用いられており、その違いの定義も一般化されていません。ただし、後者は日本語として「群集の知恵」と訳される場合もあります。ここでは、集合知を以下のように整理して考えます。

まず、集合知は「量的集合知」と「質的集合知」に分けることが出来ます。そして、後者はさらに2つに分けることが出来ます。

【量的集合知】:計量予測型集合知

これは、「東京に電柱は何本あるか?」「あそこに見える電柱の高さは何メートルか?」など、調べてみなければ正確な正解がわからないような問題を予測する能力を指します。回答者が多く集まると、個々の回答者はバラバラな答えをしますが、その個々の予測値を全体として集めたときのの平均値は驚くほど実際の正解に近くなります。回答者が多くなればなるほど、その予測は正確さが増します。個々のバラバラな知が、全体としてはものすごい天才、あるいはその道のエキスパートのような振る舞いをします。

【質的集合知】

①選択肢拡散型集合知

アンサーパーク的なインターネットサービスに代表される集合知です。ある質問者が、「こんな場合はどうしたら良いでしょうか?」と質問を投げかけ、それに対し、多数の回答者たちが「こんな方法はどうですか?」といった解決方法の案を挙げていきます。回答者は、自分では思いつかなかった多様な案を得ることができ、問題解決のレベルが向上します。これは、単に回答者の数が多くなるだけでは解決のレベルは上がらず、回答者の多様性が幅広くなることによって、知のレベルが向上します。これは、個々の知がバラで存在し、その中から特定の知を選択するという意味では、全体としてひとつのまとまった「インテリジェンス」ではなく、「個別インテリジェンスの集合」と言えるかもしれません。しかし、個々の案が挙げられるプロセスで、他人の案に触発されて別の案を思いつくということもあります(この効果を狙った発想手法がブレインストーミングやブレインライティングです)。したがって、個々の知は完全に独立しているかというと、そうでもなく、他者の知に影響を受けているという意味では「ゆるやかに一体的な集合知」と言うこともできます。

②精緻化型集合知

wikiやオープンソース・ソフトウェアに代表されるように多数の人の知によってあるテーマが上書き的に深堀りされ、その精度が増していく集合知です。例えばwikiにアップされた記事は、初回アップ当初は簡単な記述であることがよくあります。しかし、その後多数の人たちが上書き的に知を重ねていくことで、その記事の内容は詳細かつ正確になっていきます(もちろんその過程で間違うこともありますが)。これもやはり参加者の数が多くなれば精度が向上します。しかし、選択肢拡散型集合知と違うのは、一定のカテゴリーを越える多様性があっても精度の向上に寄与しないかもしれないということです。これは、どちらかというと当該テーマに詳しいエキスパートによる専門的な知の集合が求められます。また、参加者同士の共同作業(コラボレーション)というのも大きな特徴です。

クラウドソーシングは、ある企業が直面する課題の解決手段などを多数のエキスパート(専門家)や顧客・消費者・ユーザー(彼らもある意味使う側のエキスパートと言えます)に求めます。これは、解決の手段という選択肢を幅広く求める「個別インテリジェンスの集合」という意味において選択肢拡散型集合知です。しかし、技術的課題の解決を支援するクラウドソーシングによるオープン・イノベーションは、多様な視点での解決手段というだけでなく、その分野の専門性という意味でのエキスパートの集合知も求められます。ただし、想定していた技術とはまったく異なる技術や方法での解決が出現する可能性も考えると、多様性も必要です。また、ユーザーにアイデアや意見を求めるタイプにおいて、「この製品の長さはどのくらいが良いか」などのかなり絞り込んだ質問をする場合は、計量予測型集合知の要素が入ってきます。しかし、この手の質問は単なるアンケートと変わらないので、従来型のマーケティング・リサーチのパラダイムであり、あえてクラウドソーシングと言うべきものではないでしょう。

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SECIモデル(ナレッジ・マネジメント)

SECIモデル(SECIプロセス)とは、一橋大学の野中郁次郎と竹内弘高らが提示した広義のナレッジ・マネジメントのコアとなるフレームワークです。のちに、野中は紺野登とさらにそのモデルを精緻化させています。

SECIモデルでは、知識変換モードを4つのフェーズに分けて考え、それらをぐるぐるとスパイラルさせて組織として戦略的に知識を創造し、マネジメントすることを目指します。

【共同化】Socializaiton

  • 暗黙知から暗黙知へ

共同化とは、経験を共有することによって、メンタルモデル(認知的=精神的暗黙知)や技能(技術的=身体的暗黙知)などの暗黙知を創造するプロセスです。暗黙知を共有する鍵は“共体験”です。経験をなんらかの形で共有しないがきり、他人の思考プロセスに入り込むことは難しいとされています。

【表出化】Externalization

  • 暗黙知から形式知へ

表出化とは、暗黙知を明確なコンセプト(概念)に表すプロセスです。暗黙知がメタファー、アナロジー、コンセプト、仮説、モデルなどの形をとりながら次第に形式知として明示的になっていくプロセスです。野中らは、このプロセスは知識創造の真髄であるとしています。表出化は、対話(ダイアローグ)・共同思考によって引き起こされます。その際、帰納法や演繹法といった論理思考も形式化の有力な方法論となります。

【連結化】Combination

  • 形式知から形式知へ

連結化とは、形式知同士を組み合わせてひとつの知識体系を作り出すプロセスです。この知識変換モードは、異なった形式知を組み合わせて新たな形式知を作り出します。データベースとネットワークを用いて情報を体系的な知識へと変換することは、連結化の典型例です。

【内面化】Internalization

  • 形式知から暗黙知へ

内面化とは、形式知を暗黙知へ体化(身体化)するプロセスです。行動による学習と密接に関連したプロセスです。形式化されたナレッジが、新たな個人へと内面化されることで、その個人と所属する組織の知的資産となります。

SECIプロセス

SECIプロセス

SECIモデル

SECIモデル

 

<知識変換の「場」>

組織として、知識の創造、共有、活用、蓄積を活発化させるために、個々のナレッジを共有したり、共同でナレッジを創造したりするための結節点が必要となります。この結節点を、「場」と言います。豊かな知識創造・知識経営が出来るかどうか、「場」のデザインにかかってきます。「場」は、SECIモデルの各フェーズに沿って、4つのパターンに分けることができます。

【創発場】Originating Ba

  • 共同化に対応

経験、思い、信念、考え方などの暗黙知を共有する場です。

【対話場】Dialoguing Ba

  • 表出化に対応

各自が対話(ダイアローグ)を通じて暗黙知を言語化・概念化して形式知に変換するための場です。

【システム場】Systemizing Ba

  • 結合化に対応

形式知を相互に移転・共有・編集・構築し、新たな体系の形式知へと統合する場です。

【実践場】Exercising Ba

  • 内面化に対応

形式知を個々人の暗黙知へと身体化するための場です。ここでは、単なる形式知の伝達ではなく、形式知に束ねる形で何らかの経験的要素や人間的要素を提供することで暗黙知としての移転・発展を促すことができます。サービス業などで特に重要な場です。

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暗黙知 / 形式知

暗黙知と形式知は、マイケル・ポランニーが『暗黙知の次元』で示した「知識(ナレッジ)」の認識論的な分類です。

ポランニーは、「私たちは、言葉に出来るより多くのことを知ることができる」と言い、言語などの明示的・形式的表現では伝達不可能な知を暗黙知と呼んでその存在を指摘し、言語などの明示的・形式的表現での伝達が可能な知を形式知と呼びました。

暗黙知は、特定状況に関する個人的な知識で、形式化(言語化、データ化、情報化)したり他人に伝えたりするのが難しいものです。一方、形式知は明示的なもので、論理的な伝達・表現手段によって伝達することが可能なものです。

暗黙知と形式知の特徴

暗黙知と形式知の特徴

ポランニーは、人が他人の顔を見分けることが出来るが、その見分け方を具体的には説明できない、という例で暗黙知と形式知の違いを例示しています。

別の例で言えば、一橋大学の野中郁次郎と竹内弘高は、長嶋茂雄は素晴らしいバッターだったが、どうしたらそんなに打てるのかを言葉でうまく説明はできなかったと言っています。

もう少し別の例を示したいと思います。

人は運転の仕方を教習所の座学で習って知識を得ていても、始めてクルマに乗っていきなりスムーズに運転することは出来ません。実際に経験してはじめて気づくことが多いからです。特にマニュアル・シフトの操作は、事前に操作方法(形式知)を知ることは必要ですが、アクセルとクラッチとシフト・ノブを動かす微妙なタイミングと深さは、何度もエンストしてみてはじめてベストなバランスを習得できるものです。そうして習得した知識を今度新たに免許を取得しようとしている人に教えようとした場合、やはりいくら親切にアクセル、クラッチ、シフト・ノブの話をしても、新人ドライバーは一度はエンストするでしょう。言葉では伝えきれない知識があるのです。

このように身体的運動を伴う暗黙知に関しては、いくら言語化して説明しようとしても伝えきれないものが残ります。しかし、暗黙知は身体的な暗黙知だけではありません。認知的な暗黙知というものがあります。認知的な暗黙知とは、別の表現をすれば、「メンタル・モデル」です。これは具体的には、スキーマ、(思考の)フレーム、世界観、パースペクティブ、信念、視点などが挙げられます(野中郁次郎・竹内弘高【著】『知識創造企業』)。これらは、それそのものを直接的に言語化することは難しいものの、言語によるコミュニケーションを重ねることでしだいに形式化が可能となります。その過程では、しばしばアナロジーやメタファーが用いられます。

暗黙知と形式知の分類は、以下の図のようになります。

形式知と2種類の暗黙知

形式知と2種類の暗黙知

この暗黙知と形式知という概念は、野中郁次郎らの提起した広義のナレッジ・マネジメント、あるいは「知識創造」という経営理論において非常に重要な概念です。野中らは、この暗黙知と形式知の相互変換を通して組織の知の強化が図られると考え、その実践プロセスをSECIといううモデルにして提示しました。

狭義のナレッジ・マネジメントと言われるものは、企業内あるいはそのステークホルダー間での形式知の効率的な活用にスポットを当てています。ビジネス・インテリジェンス・ツールもそのひとつと言えるでしょう。こうした狭義のナレッジ・マネジメントは「知識経営」というよりは、「知識管理」というほうがふさわしい表現かもしれません。それに対し、野中らの提示する広義のナレッジ・マネジメントは、個人の中で起こる暗黙知の創出も射程に含めた、「組織的知識創造」の理論です。

クラウド・ソーシングに関しても、実態は形式知のマス・コラボレーションです。暗黙知は、その特性上、マス化・流通化が難しいと言えます。

ここに企業がフェイスtoフェイスで顔を合わせてコラボレーションや交流をすることの意義がありあす。LAN、WAN、インターネットなどのネットワークに載せてエクスチェンジ可能なナレッジは、形式知です。ネットワーク上でエクスチェンジ可能なナレッジはいわば「情報」です。メンタル・モデルは取引・流通されません。異なる業界のプレイヤーや異なる段階の流通プレイヤーとネットワークを介してナレッジをエクスチェンジする場合、それは技術情報や特許情報などの情報や販売情報などのデータです。そこには、異業種・異業界ならではの“視点”、“ものの見方”、“思考のフレーム”といった暗黙知は取引されません。これらは流通チャネルに載せて取引することが難しいからです。しかし、革新的なブレークスルーやビジネス・イノベーションというものは、異なる視点やものの見方、異なる暗黙知の交差点に生まれます。たとえば、イタリアのメディチ家が多様なジャンルの個性豊かな芸術家を各地からフィレンツェに呼び寄せて交流が生まれた結果、ルネサンスという飛躍的な芸術開花が起こりました(Frans Johanson【著】“The Medici Effect”)。ネットワークを介して形式知をエクスチェンジすることは漸進的な課題解決には繋がりますが、革新的なイノベーションには繋がりにくく、有用ではありますが限界もあります。したがって、暗黙知レベルでのナレッジのエクスチェンジを促すこと、フェイスtoフェイスでのナレッジのコラボレーションや交流をすることは、形式知のエクスチェンジのみでは成し遂げられない革新的なブレーク・スルーやイノベーションの可能性を飛躍的に高めます。

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デコンストラクション

デコンストラクション(deconstruction:脱構築)は、元来、フランスの哲学者ジャック・デリダの造語で、同一人物のテクストから一義的な意味だけを読み取らずに、背後にそれと対立するもうひとつの意味を見出し、後者によって前者を“相対化”してゆくという思考の方法論です。この方法論によって、デリダはヨーロッパの伝統的な「形而上学」の解体を試みました。デリダのデコンストラクションは、ポスト構造主義の重要な概念となりました。

Innovation Studio Japanでは、デリダのデコンストラクションの概念とは違い、「既存の事業・商品・サービスを構成要素(コンポーネント:component)に解体・分解し、他の分野のコンポーネントとの組み換え・結合(リコンビネーション:recombination)を行うことで、新しい価値を創造する」という手法をデコンストラクションと呼びます。

コンポーネントを他の(自社の/他社の)事業・製品・サービスに応用できないか(移動できないか)を検討し、新結合を図ろうとすることをディペイズマンと呼びます。デコンストラクションは、解体にはじまり結合に終わる一連の流れのセットを指し、ディペイズマンはその一部に含まれる概念です。

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